床田 将一朗「「ずっと俺のターン」は嫌っ!旅行計画を楽しむためのコミュニケーションゲーム Hang Out King」Entertainment Computing 2024【参加報告】

はじめに

B4の床田です.2024年9月2日~4日に北海道情報大学で行われた.ECシンポジウムで行った研究発表について報告させていただきます.

『「ずっと俺のターン」は嫌っ!旅行計画を楽しむためのコミュニケーションゲームHang Out King』というタイトルで発表しました.

研究概要

この研究では,旅行において「誰とどのような体験をするか」を重要な観点とし,集団内での意見整理や共有を可能にし,旅行の計画自体を楽しめるゲームを立案した.

まとめ役と参加者で認識の齟齬を解消し,旅行計画に対する納得感を高め,旅行中の不満や誤解を防ぐことをねらう.ユーザテストでは,場所の情報や場所への旅行者の感情極性,および,その強度を可視化したことで,旅行者同士の相互理解や会話の円滑化が促進されたことが示唆された.

研究の背景

旅行計画の組み方次第では満足いく旅行体験を得られない可能性があります.

計画を立てるまとめ役と参加者に2分され,まとめ役の意見だけが通って,任せきりになってしまう状態や相手のことを考慮できず,その計画に意見できていない状態が発生してしまう可能性があります.

このことが原因でお互いが意見交換しなかったことで,いざ目的地へ行ってみたら思ってたのと違うとガッカリすることがあります.

しかし,まとめ役が旅行計画を立てようとしても難しいという問題もあります.

相手のことを考えて計画を立てるのは時間もかかり,煩雑です.

既存の旅行計画支援や旅行ガイド,ウェブサイトには意見集約のシステムがない上に,大衆向けのツアーなどが書かれていることが多いため,相手の好みや都合を反映できない問題もあります.

このような問題から,お互いのことを知り,楽しみながら旅行計画を立てるカードゲーム,Hang Out Kingを提案し,今回はペーパープロトタイプとして実装しました.

ゲームマテリアル

ゲーム中に使用するものは以下です.それぞれのプレイヤは以下7個のマテリアルを使用する.プレイヤ間にアイテムの違いはない.

・スポットカードのデッキ

・フィールド

・付箋

・旅行先の地図

・筆記用具

– プラン名記入用ルーズリーフ

– メモ用ルーズリーフ

– ボールペン

これらのマテリアルを用いることで,旅行に対する参加者の意見や思考を外在化し,認識の齟齬を防ぐ.また,マテリアルを見ながら会話することで相互理解を促進し,まとめ役だけが計画するような意思決定の代理性の解消をねらう.旅行の同伴者への理解にもとづく意思決定の円滑化が期待される.以下,各マテリアルの詳細を示す.

  • スポットカードのデッキ

旅行先で訪れる場所に関する正しい情報を把握するため に,ゲーム内では図2のようなスポットカードを用いる. カードには,①場所の属性を表すアイコン;②場所の名称;③場所のイメージ画像;④その場所の概要;⑤プレイヤ判別用の番号;⑥場所の詳細な情報;⑦マップに対応する色の外枠が表記されている.⑥には,その場所の特徴,サービス,身長や持ち物の制限,所要時間,定員,平均混雑時間などが含まれる.以下のスポットカードは,USJのアトラクションを対象とした場合の例である.これらの情報をカード1枚にまとめることで,ユーザは認知していなかった旅行先について情報を得ることができ,ユーザ全体での情報の統一を行うことができる.

  • フィールド

以下の画像に示すフィールドによって,カードに示された場所に対する感情の極性を可視化する.フィールド上には,①行きたい;②どちらでもない; ③行きたくない; ④特に行きたい;⑤特に行きたくない;⑥行こう;⑦話し合う; ⑧行かないの合計8種類のゾーンがある.このうち,①,②,③をデッキゾーン,④,⑤をタグ付与ゾーン,⑥,⑦,⑧を話し合いゾーンとした.ゲーム中,カードに示された場所に対するプレイヤの感情に対応したゾーンにカードが配置されることで,プレイヤそれぞれの要望や考えが可視化される.

  • 付箋

感情極性及びその強度を可視化する手段として以下の画像のような付箋を用いる.この付箋を要望タグとし,(1)ピンク色のポジティブタグ;(2)青色のネガティブタグ;(3)黄色の重ね掛けタグの3種類を用意した.ポジティブタグとネガティブタグは,カードに対する感情極性の記録のために 使用し,何か言語化可能な特定の理由があればそれを付箋に記入することができる.ポジティブ,ネガティブの感情が特に強い場合,プレイヤは重ね掛けタグを追加で付与できる.各カードに対する感情,および,その度合いを付箋により可視化することでプレイヤが相手の考えや好みを把握しやすくなることを企図する.

  • ゲームの手順

上述のように,HOKは1)自身の考えをまとめる1人フェーズと2)議論を行う話し合いフェーズ,から構成されている.以下,各フェーズでのゲーム手順を示す.

1人フェーズ

1 人フェーズでは,プレイヤ自身の意見を可視化する. ゲーム開始時に,2名のプレイヤは机を挟み対面になるよう に座り,ついたてを間に置く.その後,以下の手順でゲー ムを行う.

(1) プレイヤは,自身の行きたい場所を決める.

(2) スポットカード全てをフィールドのデッキゾーン(フィールドの①, ②, ③) に配置する.行きたいと感じたカードは①に,行きたくないと感じたカードはゾーン③に,どちらでも良いカードは②に配置する.年齢・身長・アレルギーなどに制限される場合,フィールド外にカードを配置する.

(3) 特に行きたい,特に行きたくないと感じたカードは, デッキゾーンから「特に行きたい」,「特に行きたくない」のタグ付与ゾーン(フィールドの④, ⑤)に移動させる. ゾーン④には3枚以上5枚以下,ゾーン⑤には5枚以下になるようにカードを配置する.この時,対応する付箋をカードに付与し,理由があればそれを記入する.特にこだわりの強いものには重ね掛けタグを付与する.重ね掛けタグは6枚まで使用でき, 1 枚のカードに2枚まで付与することができる.重ね掛けタグを使いきる必要はない.

(4) 相手プレイヤに自身の考え方や方針を伝達可能なプラン名を考え,ルーズリーフに大きく記入する.カードを各ゾーンに配置した基準も併せて記入する.

話し合いフェーズ

話し合いフェーズでは,可視化された意見を基に議論し, 合意形成をねらう.話し合いフェーズ開始時に,ついたて を取り除き,以下の手順で進行する.

  • プレイはそれぞれ,自身が考えたプラン名を発表する.発表後はプレイヤの右側のフィールド外に,相手に見えるようにルーズリーフを配置する.
  • 話し合いゾーン(フィールドの⑥,⑦,⑧)を中心にゲームを進める.ゾーン④,⑤に配置された互いのカードを比較して話し合う.ゾーン④,⑤に各プレイヤが同じカードを配置していた場合,その理由を確認し,問題なければゾーン⑥,⑧に対象のカードを移動する.理由に問題がある場合や,どちらかのプレイヤがゾーン④に配置したカードが,もう一方のプレイヤのゾーン⑤に配置されていた場合,当該カードをそれぞれゾーン⑦に移動させる.どちらかのプレイヤがゾーン④に配置したカードが,もう一方のプレイヤのフィールド外に存在する場合,折衷案があればゾーン⑥,なければゾーン⑧に移動させる.これを互いのゾーン④, ⑤で重複するカードがなくなるまで繰り返す.
  • 一方のプレイヤのタグ付与ゾーンのカードが,もう一方のプレイヤのどのデッキゾーンにあるかを確認する.一方がゾーン④,もう一方がゾーン①に配置しているカードがある場合,理由を確認し,問題がなければ当該カードをそれぞれゾーン⑥に移動させる.一方のプレイヤがゾーン⑤,もう一方が③に配置しているカードがある場合,理由を確認し,問題がなければ当該カードをそれぞれゾーン⑧に移動させる.一方のプレイヤがゾーン④,もう一方がゾーン②,③に配置しているカードや,一方のプレイヤがゾーン⑤,もう一方がゾーン①,②に配置しているカードがある場合,対象カードに対応するタグを付与し,理由があれば記入を行った上で,ゾーン⑦に対象カードをそれぞれ移動させる.ゾーン②に配置していたカードにはタグは付与しない.
  • ゾーン⑦に配置されたカードについて話し合う.重ね掛けタグが付与されたもの,ネガティブタグが付与されたもの,ポジティブタグが付与されたものの順に言及する.重ね掛けタグが付与されたものは,付与されたタグの数が多い順に言及する.話し合いがまとまりそうにないと感じた場合は,次のカードについて話し合ってもよい.
  • ゾーン⑥にカードが一定数あれば,ゲームを終了する.

実験

HOKの利用による情報の可視化が旅行計画立案に与える影響を,USJで旅行を行う想定でHOKを利用しない場合との比較を通じて分析しました.以下の画像のように対象者や条件設定に制限を設けました.簡易デッキを作成し,HOKを利用したペアと利用していないペアそれぞれ5組に対して実験を行いました.その際に,録画録音も行っています.

HOKを使用したペアのテストは以下の手順で行いました.

  • 39 種類のスポットカードのHOKを用いる.
  • 一人フェーズを15分間設ける.
  • 話し合いフェーズを15分間設ける.

比較手法のペアのテストは,以下の手順で行いました.

  • 39 種類のアトラクション,フード&レストランの名称が記載されたリストを渡す.
  • 15 分間,自身が行きたい場所を考える.
  • 15 分間,二人で行く場所について議論する.

いずれの場合も,条件設定に従って実験を行い,日帰り旅行を想定し,訪れる場所が6ヶ所決定した時点で終了としました.実験終了後は,相手への理解度を図るためにフォーム上でアンケートを実施しました.

結果と考察

HOKを利用したペアでは,タグとフィールドで可視化した情報によって,旅行計画の過程で同伴者間の理解を促す会話が見られました.利用していないペアでは行きたくない場所への言及が少なく,相手に同調して意思決定する傾向が見られました.これらのことから, HOKを用いることで同伴者の意図を理解し,共感することが可能になったと考えられます.

旅行プラン名の提示は,同伴者の考えや旅行方針の理解深化に有効であることが確認されました.HOKを利用したペアは,実験終了後のアンケートにて相手の考えを正しく回答できていました.情報可視化による視覚的効果だけでなく, 旅行プラン名が相手の考えの推察や予想が同伴者への理解を深める判断材料として有用であった可能性が示唆されました. 一方,利用していないペアでは,実験終了後のアンケートで同伴者の考えを誤って回答しているプレイヤが各ペアに一人以上存在しました.特に,会話内で言及されなかった内容についての理解度は著しく低い傾向が見られました.これは旅行プラン名の提示があったHOK利用時とは異なり,相手の選択方針を理解するヒントが場当たり的に発生する会話内容に 限定されたためと考えられます.

また,HOKを利用したペアでは,旅行先の場所に対する知識や印象にプレイヤ間での認識齟齬は見られませんでした.しかし,HOKを利用していないペアでは旅行先の場所に対する知識や印象に認識齟齬が見られました..この状態のまま現地へ行った場合, 名前と実物の不一致,お互いの認識の齟齬から,旅行中に不満が発生することが考えられ,お互いが満足いく旅行体験を得られない可能性があります.このことから,場所に関する情報をまとめて共有を行うことで,認識の齟齬を防止できたと考えられます.

さらに,スポットカードがフィールド上に配置されることで,争点やそれぞれの意見が可視化され,これらを参照した議論が観測されました.しかし,こだわりが少ないプレイヤには,意思決定までに時間を要する場面もありました.HOKを利用していないペアでは,コンフリクト解決に代替案を提案するケースが多かったが、話題が二転三転してしまい,結果的に合意形成までに時間を要してい.このことからHOKではコンフリクト要素が明確に可視化されることで結果的に合意形成までの時間が短縮されたと考えます.

以下の画像にある話し合いフェーズの会話時間の統計からの考察です.

下線のあるA~EはHOKを利用したペア,F~JはHOKを利用していないペアです.

総時間について,手法による変化はあまり見られませんでした.総会話時間については,HOKを用いたペアはカードの移動などのその他の時間が多かったため,話し合いフェーズのなかで会話自体を行っている時間の割合は比較的短くなっていた.一方で,前述した考察かららHOKを利用したペアのほうが旅行計画を様々な観点から十分に議論し,同伴者間の相互理解が確認された.これらのことから,HOKを用いたペアでは,比較的短時間の中で有意義な議論が実現できていたと示唆されました.

以下の画像にあるコンフリクトは発生時の議論時間の統計からの考察です.

下線のあるA~DはHOKを利用したペア,F~IはHOKを利用していないペアです.

まず,ペアEとJではコンフリクトが一切発生しませんでした.ペアEは,どちらのプレイヤも旅行自体に特定のこだわりがなかったため,提案と受容のみで会話が構成されていました.また,ペアJはプレイヤ間でほぼ完全に旅行にむけての目的が共通していたため,コンフリクトが発生しませんでした.コンフリクトに対する総議論時間を見ると,HOKを利用したペアに比べて,利用していないペアでのコンフリクトでは議論時間が長くなる傾向が見られました.また,HOKを用いたペアの方がコンフリクトが多く発生しており議論の時間が長くなっているにも関わらず,話し合いのフェーズの総時間自体は利用していないペアと大きな違いは存在しなかった.このことから,HOKを利用したペアは,お互いの意見の相違点に着目した会話を促していたと示唆される.その上,HOKは,プレイヤそれぞれの会話コミュニケーションへの積極性には影響を与えないことが確認された.ペアBとDでは総議論時間に対してのプレイヤ x の占有率はどちらも0.700を超えており,片方のプレイヤのみが会話を大きく牽引していたと見られる.HOKは,同伴者間での意見表出を容易にすることを目的としてデザインしたものの,ペアのプレイヤ間での会話能力に差異がある場合には,話し合いフェーズでの会話の主導権自体は均等にならなかった

おわりに

様々な人が協力してくださったおかげで,初めての研究発表という場で「一般セッション優秀賞」「対話発表賞」という2つの賞を受賞することができました.協力してくださった皆様,本当にありがとうございます.

デモ・ポスター展示では,研究内容の説明とゲームプレイを行ってもらったことにより,その場でフィードバックを貰えることが多く非常に学びになりました.初めての学会で,自分の研究がちゃんと伝わるか不安でしたが,多くの人から「面白い研究」という言葉を頂けてとても光栄で,嬉しい気持ちでいっぱいになりました.

口頭発表においても会場やコメントでの質疑応答で自分の研究について議論することができました.コメントでの質疑応答は非常に盛り上がりを見せていたのですが,発表で強調したかったところについて伝わりきっていないことがありました.研究自体の課題のみならず,自分自身の課題にも直面し,自分の中で大きく成長できる機会を得られたことが非常に嬉しく思います.今回の研究発表を通して得られたものを今後の研究活動や自分自身の成長へと昇華していきたい思います.