はじめに
山西研究室B4の武内です.2025年3月17日から19日に京都大学の百周年時計台記念館を会場に開催された「第75回エンタテインメントコンピューティング研究発表会」での研究発表について報告いたします.

私は『インタラクティブメディア』のセッションにて『マジックの手順構造の学習のための手順構成支援ツールの開発』という表題で発表しました.
研究概要
マジックにおいては,手順が自然言語によって記述されていることが多く,その内容を読み解いて,自ら手順を構成することは難しいです.複雑なコンテンツ特性を持つマジック手順の構造を初学者が理解するには,認知的負荷が大きいと考えられました.同様の課題を持つプログラミング学習では初学者に対し,アルゴリズムに注意を向けさせるような教育の推奨や,教具を用いることでアルゴリズムに着目させる研究がなされてきました.そこで,マジックの手順構造や構築の学習支援に取り組みました.
本発表では,マジックの技術に関する情報を,手順のステップごとに切り分け,ステップをひとまとめにしたピースを複数作成.このピースの前後の組み合わせを考えさせるしくみを構築することで,複雑なマジックの手順をパズルのように楽しみながら構成可能にすることを提案しました.


時間遷移に伴い「マジシャンの行動が生む状況」と「観客が観測した状況」が遷移する,論理の矛盾が生じないマジシャンの行動が観客に論理の矛盾を感じさせる,というマジックのコンテンツ特性に着目をしました.このコンテンツ特性から,従来の表記と異なり,観客と演者の論理を 別々に整理・提示する必要があると考えました. 本研究では,マジックの手順を切り分けて,マジックの手順を技術の連なりとみなします.ノーコードプログラミングのように手順の構築が可能にするために,マジックで用いられる技術の情報を整理しました.技術の整理手法に関しては,技術を実行するための「前提条件」と,技術を実行した後の状況の変化内容である「状況遷移」を観客・演者の2つの視点それぞれで整理しました.このように整理することで,マジックで用いられる技術の詳細を知らなくとも,マジック手順を作れるようにすることを考えました.

また,マジックは観客が不思議を感じる時点で,観客と演者それぞれの状況が適切に異なる必要があります.そこで,技術同様に,手順構築により生み出したい状況を整理することで,手順構成時のゴールを定めることを考えました.

整理した情報を表記したツールのペーパープロトタイプを作成しました.すべてのカードには技術の名称と,マジシャン視点,観客視点の情報を記載しました,
技術に関する情報には,視点毎にそれぞれ「前提条件」と「状況遷移」を記載しています.各カードの前提条件,状況遷移を見ることで.手順構築を行わせることを考えました.

実際にこのツールを,マジック未経験者に使用してもらうことで,現状のツールに足りない要素を考察しました,本ツールを使用したユーザのうち,途中でギブアップしなかったユーザは全員,正しくマジックの手順を作成することに成功しました.ただし,発話や記録から,ツール使用時の負荷が大きく,認知資源を十分に学習に回せていないと考えられました.デジタル化などの手法により,ツールの負荷を減らす必要があると考えられます.また,ツールを利用したユーザは複数の手順をまとめて一つの関数にするような自発的な学びが観測されました.
感想
「第75回エンタテインメントコンピューティング研究会」での発表は,非常に貴重な経験を得ることができました.今回で2度目の萌芽研究発表となりましたが,発表会での発表によって,自分自身が気づいていない多くの課題や展望などを伺うことができ,より一層本研究や今後の研究について考える機会を得ることができました.今回で萌芽研究発表は2度目となりましたが,今回も研究奨励賞金賞を受賞させていただきました.大変光栄に思います.