藤本直樹:情報処理学会エンタテインメントコンピューティング研究会 EC2025 参加報告

はじめに

山西研究室M2の藤本直樹です。2025年2月に開催された情報処理学会エンタテインメントコンピューティング研究会(EC2025)にて、「環境音による音響的橋渡しを用いた楽曲遷移手法の提案」というタイトルでポジションペーパーを発表(研究奨励賞銀賞を受賞)しました。

研究背景

音楽ストリーミングサービスの普及により、プレイリストによる連続的な音楽聴取が一般化しています。しかし、特徴が大きく異なる楽曲を接続する際、テンポやジャンル、楽器構成、キーの差異により「楽曲ペアの衝突」が発生し、リスナーの音楽体験の一貫性が損なわれることが指摘されています。既存研究では類似度の高い楽曲を集めることで衝突を回避する傾向がありましたが、これではプレイリスト全体の多様性が低下するという問題がありました。

提案手法:環境音Bridge

本研究では、楽曲間に環境音を挿入し「音響的橋渡し」として機能させる「環境音Bridge」を提案します。具体的な動作は以下の通りです:

  1. 楽曲Aの終了部分をフェードアウト
  2. 環境音を数秒間再生
  3. 楽曲Bの開始部分と環境音をクロスフェード

環境音が持つ特定の空間イメージ(サウンドスケープ)を活用することで、楽曲間の特徴量差異を心理的に緩和し、テンポの遅いジャズからアップテンポのEDM曲への遷移なども自然に感じさせることを目指します。

データセット構築計画

本研究は端緒として、以下の3要素から成る統合データセットの構築を計画しています:

楽曲情報:Spotify Web APIから取得(BPM、エネルギー、ヴァレンス等)

環境音情報:DCASEのCochlSceneデータセット(13種のシーンラベル付き10秒音源)

評価データ:Webアプリによる印象評価(7段階評価・チェックボックス)

評価項目として、知覚的連続性、感情的連続性、文脈適合性を設定し、環境音Bridgeの効果を検証する予定です。

今後の展望

本発表では、環境音Bridgeの概念とデータセット構築のスキームを提示しました。今後は以下の研究課題に取り組む予定です:

  • 環境音付与が楽曲遷移体験に与える影響の実証的検証
  • 無音やホワイトノイズとの比較による環境音特有の効果の解明
  • 楽曲特徴に基づく最適な環境音選択手法の開発

将来的には、ユーザの嗜好や聴取状況を考慮した個人適応型システムへの発展も視野に入れています。

感想

ポジションペーパーとしての発表でしたが、多くの建設的なフィードバックをいただきました。特に、個人差への対応や環境音の選択基準について貴重な改善案を得ることができました。データセット構築と評価実験の実施に向けて、いただいた意見を反映させていきたいと思います。