はじめに
B4の佐々木です.2024年9月2日〜4日に北海道情報大学で行われた,ECシンポジウムで行った研究発表について報告させていただきます.
「オノマトパーティ:視覚的特徴とオノマトペのアノテーションゲーム」というタイトルで発表させていただきました.
研究概要
この研究では,視覚的特徴にオノマトペを対応づけるアノテーションゲーム,オノマトパーティを提案しました. どのようなオノマトペが,どのような理由によって付与されたのかをゲームを通して収集することで,データ収集とプレイヤ間での意思疎通の実現を目指しています.オノマトパーティのテストプレイを通して,一般的なアンケートと提案ゲームで収集されるオノマトペの個数や言語的特徴の比較と分析を行いました.
研究の背景
質感や模様などの視覚的特徴を表現する際オノマトペが使用されることが多いですが,オノマトペは主観的な表現であるという特徴があります.そのため,同様の視覚的特徴に対して,異なるオノマトペが使用されたり,異なる視覚的特徴に対して,同様のオノマトペが使用されたりします. このような齟齬を解消するためパラメータでのやり取りを行おうにも,解釈が難しく,会話ではオノマトペを使用することは避けられません.このような理由から,オノマトペは日常会話の中で必要不可欠な頻出表現であるにも関わらず,認識の齟齬を生みだす原因ともなってしまいます.
このような背景に対して,①どのようなオノマトペが,②どのような理由によって,付与されたのか共有するパーティゲーム,オノマトパーティを提案しました.
ゲームの流れ
ゲームのルールは以下のようになります.
( 1 ) 初めのみ,親プレイヤを 1 人じゃんけんで決める.親プレイヤがお題となる視覚情報カードを山札の上から1 枚めくる.
( 2 ) 子プレイヤはその視覚情報カードに合うオノマトペを考え,ほかのプレイヤに見えないようにホワイトボードに記入する.目安の制限時間を 30 秒とする.
( 3 ) 親プレイヤは子プレイヤ全員が書けたのを確認したら「せーの」と合図し,子プレイヤは全員ホワイトボードを見せる.
( 4 ) 親プレイヤは子プレイヤの中から自分が一番納得したオノマトペを選び,ホワイトボード上部にそのオノマトペを記録する.この時点では子プレイヤには公開しない.
( 5 ) それぞれの子プレイヤがなぜそのオノマトペを考えたか一言で説明する.
( 6 ) 親プレイヤは子プレイヤの説明を聞いたうえで一番納
得したオノマトペを改めて選び,ホワイトボード下部にそのオノマトペを記録する.
( 7 ) 親はホワイトボードを公開する.
• 親プレイヤが 2 回とも同じオノマトペを記録していた場合は,そのオノマトペを書いた子プレイヤに+2ポイント.
• 親プレイヤが 1 回目と 2 回目で異なるオノマトペを記録していた場合は,1 回目のオノマトペを書いた子プレイヤに+1 ポイント,2 回目のオノマトペを書いた子プレイヤに+2 ポイント.
( 8 ) 使用した視覚情報カードを捨て札に移動させる.
( 9 ) 時計回りに次のプレイヤが親プレイヤとなり,(1) に戻る.
以上の流れを繰り返し,視覚情報カードが山札からなくなったらゲームが終了し,ポイントを一番多く保持していたプレイヤの勝利となります.
実験
オノマトパーティを用いて得られるオノマトペを評価するため,テストプレイを行いました.一般的なアンケートとオノマトペのテストプレイから,視覚的情報に紐づくオノマトペをそれぞれ収集・分析を行い,比較することで評価します.オノマトパーティでは動画撮影と会話記録を行うことで,オノマトペのデータを収集しました.
実験手順としては以下の3手順となっています.
(1)テストプレイヤは,視覚情報カードに提示される画像を事前に確認する.
(2)アンケートを用いて対象画像にオノマトペを付与する.
(3)オノマトパーティをプレイする.
オノマトパーティのテストプレイにおいては学習効果と疲労の軽減のため,事前の画像の確認と,ゲーム中の休息の2つの対策を行いました.
実験ではBEIZ Images(※1)から提供されている石のテクスチャ36種類を対象データとし,20歳~22歳の大学生12名(男性7名,女性5名)で実験をおこないました.
結果
アンケートで得られたオノマトペは525個,142種類,オノマトパーティで得られたオノマトペは472個,242種類でアンケートと比べ種類数は100種類増えました.以下にアンケートとオノマトパーティで得られたオノマトペの頻度グラフを示します.グラフには 3 回以上使用されたオノマトペのみを掲載しています.アンケートで1番使用されたのは「ざらざら」で84回,続いて2番目に60回「ザラザラ」が使用されています.対して,オノマトパーティでは,「ざらざら」が1番使用され60回ですが,2番目に使用されたのは「ざりざり」の8回と.使用回数が大幅に減少しました.アンケートでは特定のオノマトペを様々なテクスチャに対して複数回用いたのに対して,オノマトパーティは多種多様なオノマトペを想起させたことが示唆されました.
個人毎に得られたデータに着目していくと,アンケートとオノマトパーティで得られた結果にも個人差が見られました.
プレイヤGはアンケートとオノマトパーティで使用したオノマトペの種類数に大きな差異が見られました.アンケートでは全部で8種類のオノマトペを使用し,「ざらざら」を何度も使用していたことが分かります.一方で,オノマトパーティでは37種類のオノマトペを用いており,ほとんどのオノマトペは1回しか使われませんでした.オノマトパーティでのプレイヤGの会話記録を確認すると,「この石が落ちたときの音」「触ると湿っていそう」「色ムラに着目した」など音声特徴や触感特徴などをもとにオノマトペを表現する場面も見られました.
プレイヤ I はアンケートとオノマトパー ティの間でオノマトペの種類数には大きな差が見られませんでした.アンケートでは,12種類のオノマトペを使用しており,半分の6種類が1回だけ使用され,「ざらざら」「でこぼこ」を多用していました.対して,オノマトパーティでは19種類のオノマトペを使用し,15種類のオノマトペを1回使用,ざらざらを多用していました.どちらでも「ざらざら」の出現頻度は高かった一方でオノマトパーティでは「でこぼこ」の出現頻度は減少し,ほかのオノマトペで表現する傾向になりました.
オノマトパーティ中の会話では,「ほとんどざらざらに見える」「他の表現方法が思いつかない」と発話していました.
プレイヤ D はアンケートとオノマトパーティのどちらにおいても多種多様なオノマトペを用いたため,アンケートとオノマトパーティの間で種類数に大きな差異は見られませんでした.オノマトペのタイプに着目すると,ABAB 型以外のオノマトペをアンケート では26種類,オノマトパーティで29種類使用しており, 他プレイヤと比べABAB型以外のオノマトペを多用していました.実際にプレイしている間では,「全体がざらざらで,この一部分がヘコッって なっている」「傷の部分がしゅしゅ,全体がざりっとしている」というように,質感と模様の両方に着目して説明する場面が多く確認されました.
得られたオノマトペの特徴を分析していくと,視覚的特徴の着眼点の違いや表現されるオノマトペに傾向が見られました.オノマトパーティで着目される特徴は,模様や質感のみならず,音声特徴や触感特徴など様々な特徴に着目されました.
オノマトパーティで使用されるオノマトペには,「モワッざらピ」のように,複数のオノマトペを組み合わせて表現することが多く見られ,さまざまな型のオノマトペや促音・撥音を使用し,微細な印象の差異を表現していました.
会話記録に注目するとオノマトパーティでは,感覚の共有,違いの確認,新たな視点に関する発言が頻出しました.オノマトパーティに「なぜそのオノマトペを付けたか」を説明する場面があることで,感覚の共有,感覚の違いを明らかにする,新しい視点からの表現を知ることができたと考えられます.
終わりに
今回はじめて学会参加・発表をさせていただきました.研究発表では,たくさんの方々と研究について議論することが出来て,有意義な時間を過ごすことができました.客観的に自分自身が取り組んでいる研究の良い点を知り,新たな課題も発見することが出来ました.
デモ・ポスター展示においても,たくさんの方々にオノマトパーティを遊んでもらい,「面白い・楽しい」という声を聞くことが出来てとてもうれしかったです.「人を楽しませる」ことが出来る研究活動ができたことを誇りに思います.今回は賞を取ることが出来ませんでしたが,次に研究発表する際には必ず,賞を掴み取りたいと思います.改めて,今回の研究発表を通して得られたものを糧にさらなる研究活動に活かしていきたいと思います. 研究に関わってくれたみなさん,ありがとうございました.