第69回エンタテインメントコンピューティング研究発表会【参加報告】 by 横井優

第69回エンタテインメントコンピューティング研究発表会,エンタテイメントコンピューティングセッションでB4の横井さんが発表

WHAT WE DO on Octber 活動報告 

2023年10月26日(木)、27日(金)に北海道室蘭市で開催された,情報処理学会 第69回エンタテインメントコンピューティング研究発表会で、B4の横井さんが発表しました。

はじめに

山西研究室B4の横井です。2023年10月26日-10月27日に室ガス文化センターを会場に開催された「第69回エンタテインメントコンピューティング研究発表会」での研究発表について報告いたします。私は、10月26日のエンタテイメントコンピューティングというセッションにて、「Tell your world:ボーカロイドは何を歌うのか?」というタイトルで発表しました。

研究概要

ボーカロイドは、歌唱の巧拙によらず創作者が歌唱を届けることができる歌声合成技術です。YouTubeやニコニコ動画などの動画共有サイトにはボーカロイドが歌う楽曲(ボカロ曲)が多く投稿されており、数千万回以上再生されている楽曲も存在します。人間は対人間と対ロボットでは異なる態度でコミュニケーションを行う可能性が考えられ、音楽の創作の場面においても、歌唱者として実在の人間のアーティストを想定した楽曲(アーティスト曲)とボーカロイド(ロボット)を想定したボカロ曲では歌唱させる内容に差異が見られるのではないかと考えました。本研究では、ボカロ曲とアーティスト曲において、歌唱させる内容に差異が見られるのか、差異が存在するのであれば人間とボーカロイドの歌唱者で歌詞はどのように異なるか、を分析・考察しました。

分析方法として、両者で歌われる内容の差異を明らかにするためにBERTopicを用いたトピック分類を行いました。更に、得られたトピックごとに重要なフレーズをトピック単位のTF-IDFに基づいて可視化しました。また、ボカロ曲とアーティスト曲の各トピックでの感情表現の差異を明らかにするために、トピック分類された歌詞それぞれに対して極性分析も併せて行いました。極性分析はJanomeを用いて形態素解析をし、名詞、動詞、形容詞に注目をしました。それぞれストップワードを設定し、日本語評価極性辞書で分析しました。

対象とするデータとして、2009年から2022年までの歌詞検索サイトの人気上位20曲ずつのボカロ曲、アーティスト曲の歌詞を収集しました。その結果、282件のボカロ曲、285件のアーティスト曲の歌詞を分析対象としました。

トピック分類の結果、外れ値とTopic0からTopic7に分類されました。上図は、各トピック内のボカロ曲とアーティスト曲の分布になります。アーティスト曲よりもボカロ曲の方が多かったトピックはTopic1、Topic2、Topic5、Topic6、Topic7です。Topic1は、周囲の目を気にして自分を偽る行為や社会の閉塞感への不満の内容が分類されました。Topic2は、深刻な恋愛や愛を求める内容が分類されました。Topic5は「ミイラ男」や「魔法」などの現実にはないものが含まれる歌詞が分類されました。Topic6は、造語やオノマトペなどの一般の文章では見られない表現が含まれる歌詞が分類されました。Topic7は「不死身」や「首吊る」などの死に関するフレーズが使われている歌詞が分類されました。ボカロ曲よりもアーティスト曲の方が多かったトピックはTopic0、Topic3、Topic4です。Topic0は別れや片想いをテーマとした恋愛や友情などの大切な人を想う内容が分類されました。Topic3は「真夏」や「日曜日」などの季節や時間に関するフレーズが使われている歌詞が分類されました。Topic4は「星」や「惑星」などの夜空や宇宙に関するフレーズが使われている歌詞が分類されました。トピック分類の結果から、ボカロ曲の傾向としてネガティブなものや非現実的なものがテーマとなり、一般の文章で見られない独特な表現がされるということがわかりました。アーティスト曲の傾向として身近なものがテーマとなり、想像のしやすい単語が歌詞の中で使われるということがわかりました。

表1は、トピック分類で得られたTF-IDFの結果になります。ひとつの歌詞の中で何度も繰り返し使われるフレーズが重要であると判断されました。ボカロ曲で使われているフレーズの方が重要フレーズと抽出されたことで、ボカロ曲の方が同一フレーズをひとつの歌詞で多く繰り返しているということがわかりました。

上図は、各トピックの極性分析の結果になります。アーティスト曲よりもボカロ曲の方が多かったトピックはTopic1、Topic2、Topic5、Topic6、Topic7です。ボカロ曲よりもアーティスト曲の方が多かったトピックはTopic0、Topic3、Topic4です。ボカロ曲が多いトピックの方が、アーティスト曲が多いトピックよりもネガティブな単語の割合が大きく、アーティスト曲が多いトピックの方が、Topic7を除くボカロ曲が多いトピックよりもポジティブな単語の割合が大きい結果となりました。この結果から、アーティスト曲の方がボカロ曲よりもポジティブな意味を持つ単語が歌詞の中で使われ、ボカロ曲の方がアーティスト曲よりもネガティブな意味を持つ単語が歌詞の中で使われていると考えられます。

上図は、Topic0とTopic2の極性分析の結果の比較になります。どちらも恋愛に関する歌詞が分類されましたが、ポジティブな単語についてはTopic0の方が多く使われ、ネガティブな単語についてはTopic2の方が多く使われている結果になりました。このことから、一般的に恋愛についてはアーティスト曲の方が多く、複雑な愛情やネガティブな単語を用いて表現された恋愛はボカロ曲の方が多いことがわかりました。

本研究の結果から、ボカロ曲はアーティスト曲に比べて、ネガティブな表現や一般の文章では見られない独特な表現やフレーズの繰り返しが多く、非現実的なものがテーマになりやすいということがわかりました。一方で、アーティスト曲はボカロ曲に比べて、想像のしやすい単語やポジティブな単語を用いて表現され、身近なものがテーマになりやすいということがわかりました。今後は経年変化に沿った分析も行うことで、ボーカロイドという新たな歌手・楽器という存在が日本の音楽の歌詞に対して与えた影響についても究明していきたいと考えています。

おわりに

今回の発表は、とても貴重な経験になりました。自分とは異なる分野の研究も多くあり、興味深いものばかりでした。他の方の研究発表を聞き、自分にはない考えにも触れることができました。今回の発表は、自分の研究に対して改めて向き合うきっかけにもなりました。質疑応答で、自分が思いつかなかったことに対する意見もいただけて、今後の研究にも活かせていけたらと思いました。また、他人に何かを伝えることの難しさや、自分の研究に興味を持ってもらえる嬉しさについても学ぶことができました。  

text:エンピツ舎