はじめに
M2の床田です.2026年6月24日から6月27日にタイ・バンコクのThe Royal River Hotelで行われた.The 23rd International Joint Conference on Computer Science and Software Engineering (JCSSE 2026)の研究発表について報告させていただきます.
「Visualizing “Like”s and “Don’t like”s for Consensus in Group Travel Spot-selection」というタイトルで発表しました.

研究概要
この研究では,複数人で旅行計画を行う際に,参加者それぞれの好みや考えを共有しやすくすることで,旅行計画に対する納得感を高めることを目的としています.考えの基盤として、旅行計画は単なる事前準備ではなく,参加者同士が互いの価値観や希望を理解するコミュニケーションの場であるとして,先行研究では,旅行候補地をカードとして扱い,参加者の「行きたい」「行きたくない」といった選好やその理由を可視化するコミュニケーション支援システム「Hang Out King(以下,HOK)」を開発しました.
紙媒体を用いたHOKでは,意見の可視化によって会話の活発化や円滑化を促す可能性が示唆された.一方で,多人数で利用する場合には,カードの配置や情報整理にかかる負担が大きいこと,議論の進行状況を把握しにくいことなどの課題も見られた.そこで本研究では,HOKをデジタル化し,参加者が入力した選好や理由をシステム上で統合・共有できるようにすることで,多人数での旅行計画における議論支援の可能性を検討しました.
今回の論文では,4人グループによるユーザテストを行い,HOKを使用する条件と使用しない条件を比較しました.その結果,HOKを使用したグループでは,肯定的・否定的な選好が可視化されることで,理由を尋ねたり,相手の意図を確認したりする場面が見られました.また,各スポットをカード単位で議論することで,話題の焦点を保ちながら共有情報を参照しやすくなる可能性が示されました.一方で,発言へのためらいや最終的な意思決定の難しさは残り,今後はAIファシリテータなどによる議論進行支援への発展を目指そうと考えています.
旅行計画の課題
旅行計画では,単に行きたい場所を決めるだけでなく,参加者ごとの好み,体力,予算,混雑への許容度,旅行に求める楽しみ方など,さまざまな要素をすり合わせる必要があります.しかし,これらの互いの価値観や考えは必ずしも共有されるとは限りません.「あまり行きたくない」「実は苦手」といった否定的な意見は,場の空気を気にして言い出しにくい場合があります.その上、複数人で計画を立てる際には,積極的に情報を調べたり議論を進めたりする参加者に意見が偏りやすくなります.また、そのような偏りがなかったとしても誰がどの場所に賛成しているのか,どの意見がすでに共有されたのかが分かりにくくなる場合があります.そのため,議論が脱線したり,以前に出た意見を忘れたりしながら,最終的な判断が曖昧になることがあります.その結果,発言の少ない参加者の希望や不安が十分に反映されないまま,計画が決定されてしまい、実際の旅行中に「本当は行きたくなかった」「自分の希望が反映されていなかった」といった不満や認識のずれが生じることがあります.このような課題を踏まえ,本研究では,参加者の選好や理由を可視化し,スポットごとに議論できる仕組みが必要であると考えました.

提案システムについて
提案システムであるHOKは課題の解決を目指し,意見の表明とその共有,情報を一つにまとめ,互いに議論ができる状態を提供することを目的としました.旅行候補地をスポットカードとして提示し,参加者それぞれの「行きたい」「どちらでもよい」「行きたくない」といった選好や,その理由を共有できます.HOKは,一人フェーズと議論フェーズの2段階で構成されています.一人フェーズでは,参加者が各自の端末上でスポットカードを確認し,それぞれのスポットに対する選好や理由を入力します.また,特に行きたい場所や行きたくない場所については,選好の強さや詳しい理由も入力できるようにしています.
議論フェーズでは,参加者全員の入力内容がスポットごとに統合されます.これにより,誰がそのスポットに行きたいのか,誰が行きたくないのか,またその理由は何かを一覧できるようになります.参加者は,以下の図のような共有情報を確認しながらスポットごとに話し合い,最終的に訪問する場所を決定します.

実施内容
実験では,4人1組のグループを対象に,ユニバーサル・スタジオ・ジャパンへの日帰り旅行を計画する課題を設定しました.HOKを使用する条件と使用しない条件を比較し,旅行計画時の会話内容,発話時間,議論された話題数,対立数,参加者のメモや入力内容をもとに,定量的・定性的な分析を行いました.特に,参加者の選好がどのように共有されるか,否定的な意見が議論の対象となるか,また議論がどのように進行・停滞するかに着目しました.
結果と考察
HOKを使用したグループでは,参加者の「行きたい」「行きたくない」といった選好やその理由がスポットごとに可視化されることで,参加者が相手の意見に気づき,理由を尋ねる場面が確認されました.特に,通常の会話では表出されにくい否定的な選好が可視化されることで,それらが議論の対象となり,参加者同士が互いの考えを理解するきっかけになっていました.また,プラン名や選好の強さを参照しながら,個別のスポットに対する好みだけでなく,旅行全体に対する考え方を共有する様子も見られました.
一方で,HOKを使用しても,発言へのためらいや参加者間の発話量の偏りが完全に解消されるわけではありませんでした.一部のグループでは,特定の参加者が議論を主導し,他の参加者は促されたときに発言する傾向が見られました.また,強い選好を入力していても,実際の会話ではその意見を強く主張できず,他者の否定的な意見を受けてすぐに譲歩する例も確認されました.このことから,選好を可視化するだけでは,参加者が自分の意見を十分に表明できるようになるとは限らず,発言機会を調整する支援が必要であると考えられます.
また,HOKではスポットカードごとに議論の対象が明確になるため,参加者は誰がそのスポットを好み,誰が懸念を持っているのかを確認しながら話し合うことができました.その結果,議論の焦点を保ち,共有情報を参照しながら意思決定を行いやすくなる可能性が示されました.比較条件では,複数のスポットが同時に話題となり,議論が脱線したり,以前に出た意見を正確に把握しにくくなる場面が見られました.これに対して,HOKのカード単位の構造は,議論の対象を整理し,話し合いを進めるうえで有効であると考えられます.
しかし,HOKを使用した場合でも,意見が共有された後に議論が停滞する場面が確認されました.たとえば,参加者同士がある程度合意しているように見えても,誰が投票や最終決定に進むのかが曖昧なまま,議論が止まる例がありました.一方で,比較条件でも,明確な進行役がいるグループでは短時間で合意に至る場合がありました.このことから,合意形成には情報の可視化だけでなく,議論を進める役割や,次に何をすべきかを示すファシリテーションが重要であることが示唆されました.
以上の結果から,ディジタル版のHOKは,参加者の選好や理由を可視化し,旅行計画を議論の対象として整理することで,相互理解や焦点の定まった話し合いを支援する可能性が示されました.一方で,発言へのためらい,参加者間の発話量の偏り,意見共有後の意思決定の停滞といった課題も残されていました.今後は,発言の少ない参加者への問いかけ,未解決の対立の提示,議論が停滞した際の妥協案の提案など,議論の進行を支援するAIファシリテータや補助機能の導入が求められると考えられます.
おわりに
今回の学会発表は人生で初めての,執筆・発表・質疑が英語での発表でした.申し込みですら英語でビクビクでしたし,執筆にあたり多方面にかなりお世話になり,ご迷惑もかけました。質疑応答では内容のニュアンスは捉えられても、細かな内容は捉えきれず,見当違いな回答をして、質問してくださった方を困惑させたりもしました.英語が十分に話せないもどかしさを感じながらも,参加していたタイの学生と交流することができました.タイの学生とは今でもやり取りが続いており,異なる国の学生と直接関わる経験を通して,国際会議に参加する意義を実感しました.今後は今回の成果を踏まえ,今後は議論の進行を支援するAIファシリテータや補助機能の導入,順序制約を理解しながら複数人で議論できる旅行計画支援システムの導入を行っていこうと思います.