【参加報告】 牧野純之介:A Network of Voice Actors in Anime Based on Casting History, KES2025

はじめに

山西研究室M1の牧野純之介です.2025年9月に大阪の立命館大学茨木キャンパスにて開催された”29th International Conference on Knowledge-Based and Intelligent Information & Engineering Systems”(以下KES)に参加させていただきました.” A Network of Voice Actors in Anime Based on Casting History”という表題で発表させていただきました.

研究概要

この研究は,声優の配役歴を用いて声優ネットワークグラフを構築し,声優の演技特性やキャスティングの特徴を分析,考察するものです.アニメ作品を見ていると,登場するキャラクタの特徴にマッチングをした演技をする声優がよくキャスティングされていることが見られます.そこで,本研究では配役歴を分析することで,声優の”声”を用いずに,声優の特徴を明らかにすることができると考えました.配役歴から構築したネットワークを分析したところ,いくつかの特徴が確認されました.例えば,男性と女性声優のキャスティング傾向の違い,ベテランと若手の違いなどが確認されました.貢献として,アニメキャラクタの定量的なキャスティング指標に活用できると期待できます.

ネットワーク構築手法

声優の配役の特徴を分析するため,配役歴を用いてネットワークグラフを作成します.ネットワークを構築するステップは以下の通りです.

  1. 各声優の配役歴データの入手
  2. 各キャラクタの特徴データ「キャラクタ属性」の入手
  3. 1と2を参照し,各声優にキャラクタ属性を割り振る
  4. キャラクタ属性よりベクトルを作成,コサイン類似度より,ネットワークを構築

これらの手順を踏まえて,ネットワークグラフを構築します.構築に使用したデータはウェブ上より取得いたしました.特に,「キャラクタ属性」はファンサイト「キャラクタ属性王国」より取得しました.このサイトはファンメイドのサイトとなっており,キャラクタに対する第三者の評価が蓄積されていると考えられます.つまり,今回構築したネットワークは第三者からのキャラクタの評価を介して,声優を分析できます.

分析と考察

ネットワーク分析手法として以下の通りです.

  1. 中心性指標により分析
  2. クラスタリングにより分析
  3. 特定の声優にフォーカスした分析

1,2の分析よりいくつかの声優の配役特徴が考察されました.まず,男女による配役特徴の違いです.図1,図2は各分析の際に声優ネットワークを可視化した図になっています.ここから,男女の違いが確認されました.考察のまとめをしますと,

  • 男性声優は多くの人とキャラクタ属性を共有している
  • 女性声優は特定のキャラクタ属性に特化した傾向やキャラクタ属性の種類が男性より多い可能性

これらが考えられました.

図 1 固有ベクトル中心性の可視化による男女の違い
図 1 クラスタリングの可視化による男女の違い

3の特定の声優にフォーカスした分析からは,若手声優とベテラン声優の配役特徴の違いが考察されました.図3はある新人女性声優とベテラン男性声優を中心としたネットワークグラフになります.それぞれのグラフ内には,各声優と似ていると判定されている声優がグラフ内に登場します.ここから,右側の新人女性声優には同性の声優のみ登場しています.対して,左側のベテラン男性声優は男女どちらも登場しています.まとめとして

  • 新人声優は同性の声優とつながりをもつ
  • ベテラン声優は男女関係なくつながりをもつ

ということが確認されました.他の声優も分析したところ,同様の特徴が見られました.

図 1 特定の声優を中心とし,その声優と配役傾向が似ていると判断された声優のみで構成されたネットワークグラフ.右は新人女性声優,左はベテラン男性声優.赤は女性,青は男性,黄色はその声優自身を表す.

課題・今後の展望

本研究では,ウェブ上のファンサイトを用いた分析を用いましたが,いくつか課題も見られました.今後は以下の研究課題に取り組む予定です.

  • ファンメイドによるデータソースの偏りの解消
    • 声優やキャラクタによって,もっている情報の偏り等が見られるため
  • 各声優の演じたキャラクタの知名度や人気度などの尺度を導入
    • より直感に沿ったような声優の印象を可視化,分析するため

将来的には,ネットワークを用いたキャスティングの支援やキャラクタとのマッチング度の検索等を貢献として考えています.また,声優だけでなく,実写のドラマの役者キャスティング分析等も本研究の手法を応用できると考えられます.

感想

今回は人生始めての国際会議ということで,論文執筆,口頭発表,質疑などすべて英語での対応でした.質疑応答では内容は聞き取れたりしたものの,ボキャブラリ不足で返答に困ったりしました.自分の英語力の限界を実感したり,コミュニケーションを取れたところは自信に繋がったりと,かけがえのない経験をさせていただきました.