EC2023参加報告:WHAT WE DO on August 2023

  • 活動報告 「Entertainment Computing 2023(EC2023)」で、4年生の松下さんが発表,優秀研究賞を受賞

活動報告

Entertainment Computing 2023(EC2023)で、4年生の松下さんが発表,優秀研究賞を受賞しました。

はじめに

山西研究室B4の松下です.2023年8月30日-9月2日に東京工科大学 八王子キャンパスを会場に開催された「Entertainment Computing 2023(EC2023)」にて研究発表について報告いたします.

今回は「“遊戯王”に!!!俺はなるっ!!?」というタイトルで発表しました.

研究概要

遊戯王オフィシャルカードゲーム デュエルモンスターズ(遊戯王OCG)は,高橋和希氏の描く漫画を原作とした日本発祥の代表的なトレーディングカードゲームの1つです.遊戯王コンテンツは漫画やアニメ,ゲームといったようなメディア芸術を横断したエンタテインメントコンテンツであり,高い知名度を誇っています.しかし,遊戯王OCGのプレイヤー人口はその知名度に対して多いとは言えません.この要因としては,ルールの複雑さ,ゲーム内で使用可能なカード種類が非常に多いことが挙げられます.これらの要因から,遊戯王OCGのルールを知らないような初心者は,ある局面を観戦したとしても,戦況を理解することができません.このことが,初心者が新規プレイヤーとして参入することを難しくしていると考えられます.そこで,本研究ではこの戦況把握を支援することで,初心者にたいする課題を解決することを目的とします.戦況把握を支援する方法として,本研究では「切り札」へのパスを基準とした局面の可視化を行い,その有用性を実験にて確認しました.

遊戯王OCGには,モンスターゾーンや手札,墓地のように様々な領域が存在し,どの領域にどのカードが存在するかによって戦況が決定されます.その中でも,特定の領域に配置することでゲームを有利に進めることができるカードが存在しています.このようなカードを「キラーカード(KC)」と定義します.この定義によって,KCが有効になる領域に存在する場合,または有効になる領域に即座に移動させられる場合に有利な戦況であると説明することができます.カードを領域間で移動させるためには,ルールによる方法とカードに書かれている効果テキストによる方法の2種類が存在します.このような,効果テキストを利用することで,他のカードを領域間で移動させることができるカードを「ステップカード(SC)」と定義します.SCを利用するためには,1)SC自体が利用可能な領域に存在する(Activating condition) 2)SCの効果の対象となるカードが利用可能な領域に存在する(Target placement)の2つの条件を同時に満たす必要があります.SCを利用することで,KCまたは他のSCの領域を移動させることができます.その結果として,KCを有効にする,または他のSCのActivating conditionやTarget placementを有効にすることができます.

KCとSCの考え方を用いることで,局面において,KCを有効化できるかどうかという観点で戦況を説明することが可能になります.この考え方をもとに,可視化インターフェースの作成を行いました.

上図は可視化インターフェースのイメージになります.このインターフェースはデッキにおけるKCとSCのカード間の関係をマークと矢印によって表しています.SCに紐づいている2つのマークはSCの条件を満たしているかどうかを表現しています.条件を満たしている場合にマークを点灯させ,満たしていない場合には消灯させることで表現します.2つのマークがどちらも点灯している場合はそのSCは利用可能であり,SCが持つ矢印を実線で表現しています.矢印がKCに向いている場合,そのKCを有効にできることを表します.矢印がSCのマークに向いている場合は,そのマークを点灯させられることを表します.この場合は,マークを薄く点灯させることで表現します.他のSCによってマークが薄く点灯した結果,2つのマークがどちらも点灯した場合にも,そのSCは利用可能であると言えます.この場合にはSCが持つ矢印を破線で表現します.2つのマークのいずれか,またはどちらも点灯していない場合にはそのSCは利用不可能であり,矢印を破線で表現します.この図の例では,1)sc1を利用する 2)sc6を利用してsc2を有効化した後にsc2を利用する といった2通りの方法でkc1を有効化できることが分かります.この可視化インターフェースを用いて,遊戯王OCGの初心者に対して実験を行いました.

実験では,遊戯王OCGの初心者14名に対して,同一デッキにおける2種類のゲーム開始時の5枚の手札(初期手札)を提示し,どちらの方がより有利な状況であるかを回答させるということを行いました.今回の実験では,サンプルデッキとして「デュエルロワイヤルデッキセットEX」に収録されている「青眼の白龍」デッキを使用しました.実験で用いる初期手札として,熟達プレイヤー3名によって事前に優勢,劣勢,その中間となる各評価項目の初期手札を構成しました.これらの初期手札から,評価が異なる初期手札2種類の組み合わせを問いとして,合計9問用意しました.この際,初期手札の組み合わせの内,熟達プレイヤーの評価が高い方を正解データとしました.例えば,優勢と中間の組み合わせでは,優勢である初期手札が正解データとなります.被験者を実験群7名,統制群7名に分け,実験群には可視化インターフェースを用いて,統制群では用いずに実験を行いました.評価では正答率と回答理由,回答時間,発話内容に着目し,実験群と統制群での比較を行いました.

上図は実験群で用いたインターフェースの例になります.2種類の初期手札を初期手札A,初期手札Bとし,画面左側に初期手札A,画面右側に初期手札Bの情報を示しています.画面上部には初期手札となるカードの画像を示しています.実験中は公式カードの画像を使用しています.画面中央部はカードに書かれている効果テキストを拡大したもので,被験者によって自由に表示,非表示ができます.画面下部は各初期手札における可視化インターフェースを示しています.

上図は統制群で用いたインターフェースの例になります.実験群で用いたインターフェースから,可視化インターフェースを除いています.

上の表は各被験者の正答数及び正答率になります.正答率は,実験群の方が高い結果となりました.このことから,可視化インターフェースを用いることで熟達プレイヤーに近い評価が可能になったと言えます.回答理由については,実験群では可視化インターフェースのマークやカード間の経路に着目した回答理由が見られました.KCを有効にできる手札であるか,できない場合にはマークが多く点灯していて将来の期待値が高い手札はどちらかといったことが考察されていました.一方で,統制群では初期手札の効果テキスト,攻撃力,カードタイプの比率に着目した回答理由が見られました.このことから,実験群は現在の状態だけではなく,その後のゲーム展開でのカードの連動に着目していることが示唆されました.

上の表はそれぞれ実験群(上図),統制群(下図)の問いごとの回答時間になります.回答が1分未満の場合は数字を太字で表示しています.また,正解の回答をした場合には背景色を赤く表示しています.これらの表から,実験群は多くの問いで平均して1分台で回答できていることが分かります.また,1分以内の回答に関しても,実験群では正答率0.90,統制群では正答率0.72となりました.このことから,実験群は統制群と比較して,短い時間で正しく戦況を理解できたことが示唆されました.

発話内容についても,実験群と統制群で差異が見られました.実験群では「 “青眼の白龍”が手札にあるが,発動できないので今強い訳ではない」「経路で考えるとこっちになるのかな」といったような,可視化インターフェースに着目し,KCを有効にできるかどうかについての比較が見られました.統制群では,「儀式モンスターって何?」「“強化蘇生”がめっちゃ強そう」「魔法カードの強さがこのカードゲームにおいての立場が分からない」といった,カードの効果テキスト等のカードごとの評価が見られました.以上の実験結果から,可視化インターフェースを用いることによって,初心者は熟達プレイヤーの回答に近づくことができたと考えられます.

本研究では遊戯王OCGの初心者に対して,戦況把握を容易にする方法として,キラーカード(KC)とステップカード(SC)の考え方を用いた可視化インターフェースの提案を行いました.可視化インターフェースを用いた評価実験では,実験群は正答率,回答時間において統制群と比較して熟達プレイヤーに近い結果が得られました.このことから,“遊戯王”に一歩近づくことができたのではないかと思います.

おわりに

EC2023では興味を惹かれる研究発表が多くあり,聴講していて楽しかったです.発表では準備から発表,ポスター発表まで何から何まで新鮮でした.その中で他大学の学生や先生方,企業の方から多くの意見やお話を伺い,自分の研究について改めて考えるきっかけとなりました.

EC2023に参加することによって,発表の難しさ,楽しさといった価値を改めて学べました.また,優秀研究賞という賞もいただけて嬉しく思います.

最後になりましたが,ご指導いただいた山西先生,辻野先生,馬場さん,そして遊戯王OCGの初期手札の評価において協力いただいた田崎さん,永田さんに感謝を申し上げます.ありがとうございました.

Entertainment Computing 2023

開催日程:2023年8月30日(水)~9月2日(土)
開催形態:現地開催
現地会場:東京工科大学 八王子キャンパス
主催:情報処理学会 エンタテインメントコンピューティング研究会

text:エンピツ舎