はじめに
関西大学 山西研究室修士2年の牧野純之介です.2026年9月1日から3日にかけて京都産業大学にて開催された「エンターテインメントコンピューティングシンポジウム2026」にて行った研究発表について報告いたします.「好き」をメタ認知可能にするための紹介文を情報源としたChara2Vecという表題で発表させていただきました.
研究概要

図 1:本研究のコンセプト図
本研究では,ユーザが自身の「好き」の理由を理解し,その嗜好を新たな作品探索につなげることを目的として,キャラクタの特徴表現「Chara2Vec」を提案しました.キャラクタは,性格,役割,行動,関係性など,物語に関わる多面的な情報を持っています.そこで,キャラクタを物語の特徴やユーザの嗜好を捉える手がかりとして利用することを考えました.具体的には,Web上のキャラクタ紹介文を情報源として,Doc2Vecを用いてキャラクタを固定長ベクトルとして表現し,異なる作品のキャラクタ同士を同一の特徴空間上で比較できるChara2Vecを構築しました.これにより,好きなキャラクタを起点として,自身の嗜好の理解や未知のキャラクタ,作品の探索へつなげることを目指しています.
前処理手順:キャラクタの特徴空間を得るための工夫点
作品を横断したキャラクタ比較を実現するため,紹介文に含まれる作品固有の表現の影響を抑えた点を工夫しました.作品名,キャラクタ名,地名,作品固有語などが残っている場合,「同じ作品に登場するから似ている」という関係が形成される可能性があります.そこで,TF-IDFを用いて作品に特徴的な語を除外するとともに,NERによって人物名,組織名,地名などの固有表現を除去しました.これにより,作品そのものを表す語ではなく,性格,役割,行動など,キャラクタ自身の特徴に基づいた比較を目指しました.また,類似キャラクタを検索するだけでなく,「なぜ似ているのか」を解釈するため,紹介文から一語ずつ除去し,類似度の変化を調べるアブレーション分析を行いました.これにより,キャラクタ間の類似性を形成している特徴を語彙の観点から分析しました

図 2:Chara2Vec構築工程のフロー図
.
結果
最終的に,19,446キャラクタについて100次元の特徴表現を構築しました.構築した特徴空間に対して,定量的,定性的な分析を行いました.
ランダムに抽出した10万組のキャラクタについてコサイン類似度を調べた結果,類似度は0付近を中心に分布しており,すべてのキャラクタが一様に近くなるのではなく,キャラクタ間の差異が保持されていることを確認しました.
クラスタリング分析では,多くのクラスタが特定の作品だけで構成されるのではなく,複数の作品にまたがって形成されていました.さらに,特徴語の分析から,人物,属性,行動などに関する語が特徴空間や類似関係の形成に関わっていることが確認されました.これらの結果から,作品を横断してキャラクタを比較するための基礎的な特徴空間が形成されていることが示唆されました.
今後の展望
今後は,作品固有語やシリーズ固有の文脈の影響をさらに抑えるため,前処理手法やTF-IDFの閾値について検討します.また,Doc2Vecのパラメータや紹介文の長さが特徴表現に与える影響についても検証する必要があります.
さらに,SBERTなどの他の文書埋め込みモデルとの比較を行うとともに,Chara2Vecによる類似性と,人間が感じるキャラクタの類似性がどの程度対応しているかをユーザ実験によって評価します.
将来的には,紹介文だけでなく,キャラクタの外見,声,レビューなどの情報も取り入れることで,より多面的なキャラクタ特徴表現へと発展させます.そして,好きなキャラクタを起点として,自身が「何に惹かれているのか」を振り返りながら,未知のキャラクタや作品へと探索を広げられるシステムの実現を目指します.
感想
ECシンポジウムの参加は個人的に2024年の二年ぶりということで,久しぶりに発表をさせていただきました.学部生の頃と比べ,執筆から資料準備,当日の議論等,成長を感じられるような機会でした.また,様々な他の研究者,学生の方たちとの議論を通じて,本研究の今後の向かう先,課題等が見えてきて,非常に有意義な時間であったと思います.参加にあたって支えてくださった先生方,研究室内の同期,先輩後輩に感謝を述べたいです.