【参加報告】床田将一朗:旅行計画支援カードゲームの多人数化・ディジタル化に向けた問題整理,第21回 観光情報学会全国大会,2025年6月

はじめに

M1の床田です.2025年6月28日と29日に京都橘大学で行われた.観光情報学会全国大会で行った研究発表について報告させていただきます.
「旅行計画支援カードゲームの多人数化・ディジタル化に向けた問題整理」というタイトルで発表しました.


研究概要

この研究では,旅行計画時の議論の場の提供と支援によって旅行計画への納得感を高め,旅行中の不満や誤解を防ぐことをねらい,コミュニケーションの場として楽しむことを目的として,私たちの先行研究で「Hang Out King(以下HOK)」を開発しました.少人数利用では,HOKによる意見の可視化は会話の活発化・円滑化を促すことが示唆されました.一方で,多人数での利用には使用環境が限定されるなどの物理的制約や,情報整理のユーザに対する負担が大きいといった課題も発見されました.
そこで,2025 年 5 月 5 日に関西大学梅田キャンパスで行われた「STREAM FEST.2025」(https://sites.googlecom/youmemiru.co.jp/streamfest2025) に参加し,子どもや親子を対象にHOKをプレイしていただきました.その結果,少人数プレイでは確認できなかった議論の停滞やプレイヤー間の能力差による問題点などが明らかとなり,今後の多人数・デジタル対応に向けた課題を整理しました. 


実施内容

STREAM FEST.2025では,以下の内容でワークショップを行いました.
使用したマテリアルや手順は以下の図をご参照ください.詳細な内容に関しては私たちの先行研究である「『ずっと俺のターン』は嫌っ!旅行計画を楽しむためのコミュニケーションゲーム Hang Out King」をご参照ください.

  • 参加者:小学生同士および親子
  • プレイ形式:2人プレイ×20回,4人プレイ(2名vs2名)×5回
  • 制限:一部のカードや付箋を省略し簡略化
  • 進行:ファシリテータ(筆者)が介入する条件
  1. 理由が共有されず議論が停滞した場合
  2. ルールの混乱が見られた場合
  3. 主張が出揃っても決定がなされない場合 

結果と考察

議論の停滞場面や主張の衝突が見られた場合に着目し,フィールド操作,会話内容,表情・行動を中心に定性的な分析を行った.プレイヤは年齢や関係性,人数に関わらず,基本ルールを速やかに理解し,目的地の選定という明確な論点に対して議論を展開できていました.

しかし,プレイヤが子ども2名の話し合いフェーズでは,主張理由の共有が行われず,タグ付与ゾーンのカード配置が議論フェーズ中に変更が起きて互いの主張が整理された議論とならない例が確認されました.また,議論を通して合意に至る過程は子どもの会話能力や性格に依存し,自らの意見の理由を明確に主張できない参加者も見られました.HOKのルールによって情報整理した中であっても,議論の質がプレイヤの個人能力に左右される構造的問題が明らかになりました.4人プレイ時には,各チーム内で主張役と補足役に自然に別れ,チーム間で交互に意見を主張する議論構造が成立していました.議論中に,お互いの主張を理解して譲歩する様子が確認されました.納得して旅行計画に合意するだけでなく,同時に自身らの意見に説得しようとする競争的な議論の側面も見られました. 以上の結果から、HOKはプレイヤーの意見表出を支援し、旅行計画を議論の対象として楽しむ効果がある一方で,議論の進行やその会話内容を個人の能力に頼りきりになってしまい,支援手段としてはまだ不十分な面が残されていることが示唆されました.今後は、議論を構造的に支援するためのテンプレートや補助ツールの導入、発話や合意形成プロセスを明示するデザインの整備が求められると考えます.

おわりに

本ワークショップでは,多人数・ディジタル化の展開に向けた有用な知見を得る貴重な機会となりました.同時に,議論支援における課題も浮き彫りとなり,今後のルール設計やインターフェース開発に向けた知見を得ることができました.

参加してくださった皆さん,本当にありがとうございます. これらの成果を踏まえ,今後はHOKのディジタル化を進め,より多様なユーザにとって利用しやすい旅行計画支援ツールを目指していきたいと思います.