山西良典です.体験を伴う研究分野の方々におすすめしたい学会運営のしかけを紹介させてください.
山西がPC委員長を務めたECシンポジウム2023(https://ec2023.entcomp.org/)では,レコメンデモという評価方法を設計しました.その様子は,研究報告から確認できます.
レコメンデモは,EC2024(https://ec2024.entcomp.org/)でもPC委員長栗原先生(津田塾大学教授)のディレクションのもと,手続きや評価員の選定方法について持続性を考慮してアップデートされたうえで継続開催されました.2年間実施してみて,設計者としての自画自賛ではありますが,本当に良い仕組みを考えたんじゃないかと思って,体験を伴う研究分野(デモなどを実施する分野)で取り入れてもらいたいなと考えています.
レコメンデモは,簡単に言えば,論文誌のオープンレビューの仕組みをデモ評価に適用したものとなります.ここで設計の概要を示すと,
- デモの評価では,単純な良し悪しの投票ではなく,体験を言語化し説明する.
- 評価者は当該研究分野における専門委員とし,専門委員は運営委員会からの推薦・依頼によって定める
- デモ体験時に展示者には,誰が評価者であるかは明かさず,一般参加者と平等・公平な立場で体験する
- デモの評価は,学会の会場において口述されて表彰される.
- 口述された内容は,その後,文字起こしして文献化することで,体験を引用可能にする
このレコメンデモの良さは,
- その時に評価者が何を感じたのかという心の動きがアーカイブされる
- 評価者のバックグラウンドをもとに,どのような研究者にどのように体験されたかが言語化される
- 参加者全員の前で,展示デモの良いところを褒めちぎられるというモチベーションが爆アガリする経験(特に,学生にとっては)を提供できる
- 評価が文献化されることで,当該研究者はどのように体験してもらえるデモなのかを自身の継続研究課題の論文で引用可能になる
- 他の研究者も,どのようなデモがどのような体験を提供したのか,を文献引用によって論文内で説明可能になり,自身の新たな提案を過去の事例を元に説明しやすくなる
これ,実はもともとは,谷口先生(京都大学教授)が発案されたビブリオバトルに発想を得て考えました.また,その時の,思いを記録に残す,記憶に残る体験を記録として残すということは大事だなと思っていました.例えば,学生に僕が中学生の頃に小室哲哉のプロデュースに感動した体験を共有してもらえることはないと感じています.その時の自分の背景,社会的背景,技術や文化の状況があったうえで,その環境で自分が感じたことを思い出しながら説明するのは難しいです.
やってみると,体験を提供するような研究,特にエンタテインメント系の研究においてとても相性が良いと実感しています.国際会議ICEC2024においても,デモの評価においては単純な投票だけでなく,「なぜ,このデモは良いのか」というdescriptionを残すという方針で進んでいます.
知性の先にある感性へのアプローチにおいては,単純に良かった悪かったという結果だけでの評価では不十分と考えています.それだけでなく,なぜ心が動いたのか,どう心が動いたのか,を後世に残し,その体験を参照・引用可能にするレコメンデモ,ぜひ,広がってほしく思います.