最近発表した論文を3回に分けてご紹介.今回はその2回目です.
Episode2
ストーリーを魅力的に伝えるためにはどのような情報を視聴者に提示すれば良いのか?連続ドラマの冒頭で流れる「前回までのあらすじ」は,その代表的な好事例のひとつです.長いストーリーでは,登場人物間の関係を忘れてしまったり,大切な伏線や初期設定などを忘れてしまう可能性があります.連続ドラマの「前回までのあらすじ」ではこれらの情報を効果的に提示することで,内容理解やこれから見るエピソードへの理解を高めていると考えられます.
そこで,人気の海外ドラマを3シーズンごと9作品,全490エピソードの「前回までのあらすじ」を分析してみました.分析の方針としては,初歩的な分析として,「あらすじで使われているセリフが最初に出てきたのは,過去のエピソードのどこか?」を調べてみることにしました.ただし,全く同じセリフが使われた場合だけを対象としているので,セリフが改変されている場合には対応できていません.
その結果,以下のことがわかりました.
- 各シーズン中のエピソードの相対位置によって採用されるセリフの傾向がある
- 固有名詞は複数回,あらすじに採用される傾向がある
- あらすじ中のセリフの出現順序は,本来のストーリー中での出現順序とは異なる
今回は,このうち,2つ目の要素について全体的な傾向を説明します.
エピソードが進むにしたがってエピソード冒頭のあらすじもストーリー進行に従って変化していくことになります.
しかし,ストーリーの中で重要なセリフや象徴的なセリフは複数エピソードで冒頭エピソードで採用される傾向にあることがわかりました.また,一般的な文書の要約とは異なり,その文を見るだけでは内容が理解出来ないものも多く,ドラマの視聴者が「なんとなく」思い出すような情報量を提供していると考えられます.
例えば,ドラマ「Lost」では,
” – Sure.”
“Hi”
“Locke!”
“Oh!”
“John?”
といったやりとりが冒頭のあらすじに採用されていました.しかし,これを見ただけではストーリーがどのように展開しているのかはわかりませんが,登場人物の名前であるLockeやJohnといった人物名はわかります.これまでの視聴者は,映像と共にこれらのセリフを視聴することで,これらの人物がこれまでにどのようなやり取りをしてきたのか,を端的に思い出すことができます.このような登場人物の名前や重要な地名や道具の名前(これらを固有名詞と呼びます)を呼ぶシーンは,ドラマの中での重要事項を思い出させる効果を狙っていると考えられます.
また,エピソードの展開によって採用される重要事項について微妙に変化していく様も見られました.
例えば,ドラマ「Super Natural」では,シーズン3のEp.14-16では連続して以下のセリフがエピソード冒頭のあらすじに採用されていました.
※なお,以下の考察では,Super Naturalのネタバレを含む可能性があります.
“Whata do you say we kill some evil sons of bitches and we raise a little hell?”
“I got a boss like everybody.”
“Who holds the contract?”
“I can’t tell you.”
“Let dean out of his deal right now.”
実は,Ep.14とEp.15では,これらのセリフの他に”I’m just a saleswoman”というセリフが採用されていましたが,Ep.16ではこのセリフが冒頭あらすじから除外されました.これらのセリフは”a boss”の正体を解き明かしていくストーリーであり,主人公たちがボスは誰なのかを探りつつも怪しい女性がいるという展開です.しかし,Ep.15の時点で,ボスが誰であるのかが明らかになり,”just a saleswoman”ではないことが明らかになったため,ストーリー本編との整合性を保つために,このセリフは除外されたと考えられます.
様々なシーンのセリフがスピーディに切り替わる冒頭あらすじのセリフを見るだけでも,エンターテイメントにおいて視聴者を楽しませようとしている工夫があることが読み取れます.
本研究成果は,「電子書籍における読書状況に応じたストーリー情報呈示システムの開発,日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C),20K12130,研究代表」の支援のもと,以下の研究成果として発表したものの抜粋です.
山西良典,西原陽子: 連続ドラマにおける「これまでの…」の基礎分析, メディアエクスペリエンス・バーチャル環境基礎研究会, 2020年9月8日
次回は最終回です!どうぞお楽しみに!
WHAT WE DO on June
MEET THE TEAM June
6月のゼミはリモートと対面が再開された.4月に決めたテーマについて,順番にミーティングをおこない研究の方向性を定めていく.4週間ぐらいの期限で各自研究発表に臨む.調べたことをパワーポイントを使って資料にまとめ準備する.制限時間内に話し切ることも研究発表に含まれた課題である.
研究会や学会がリアル開催されることが待ち望まれる反面,デジタルが前提となった空間・環境への移行は加速中だ.これって、これまで以上に世界中のカンファレンスに参加できる機会が増えるということでは?まさに絶好のチャンス.ラボでの活動はリアルとリモート.すでに両方に対応できる練習ができているというオマケ付き.
プレゼンにとって大切なこと.まずは,目先のテクニックによらず,「聞いてもらいたいことがある」という熱い気持ち.その姿勢はなにかしら聴衆の心を揺さぶる.よく聞き、よく考えることは、自分ごととして展開されていく.狙い通りの相乗効果.さてと,次は誰の発表かな?チームメンバーの進捗状況はやっぱり気になる.自分と比較している訳ではないんだけれど,ちょっと焦ってしまう今日この頃.
イベント報告
イベント報告
- 6月16日(水) 大学院のコロキアム(修士1年生の中間発表)開催されました.これは総合情報学部大学院生の研究成果の発表会.先輩たちの研究内容を知ること、また、具体的な研究のイメージが理解できました.
- 6月17日(木) 株式会社ファリアー 代表取締役 馬場保仁さんをゲストに懇談会を開催.ゲーム業界,仕事,大学生活についてお話しいただきました.
馬場さんはずっと「ユーザを楽しませたい!」「コンテンツでも、サービスでもお客さんに喜ばれるものがやりたい」という気持ちで開発を続けておられます.「それがなければただの苦痛になってしまう」「大学で研究をコツコツやることは、社会にでて生きることは多い.仮説をたてて、自分でやってみよう!」と語られました.
メッセージ,たしかに受け取りました!
Text : エンピツ舎